小規模企業共済って聞いたことありますが、どんな制度なんでしょうかか?
クリエイターは利用した方がいいんでしょうか?
小規模企業共済は小規模事業者向けの退職金制度で、もちろんクリエイターも加入できます。
今回は小規模企業共済とはどんな制度なのか、クリエイターにおすすめできるのかを解説していきます。
- 小規模企業共済の概要
- 投資先としての評価
- おすすめできるクリエイター
小規模企業共済の目的
小規模企業共済は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営する「退職金制度」です。
小規模企業共済制度が始まったのは昭和40年と歴史のある制度です。
この制度を始めるにあたっては、下記の様な2つの大きな目的がありました。
- 小規模企業の経営者や個人事業主が廃業や退職した後、安定した生活の確保や、事業再建のため。
- 一般的な労働者と比べ、社会保険等の各種制度の恩恵を受けることが少ない小規模企業の経営者や個人事業主に対する社会保障政策の不備を補充するため。
他の記事でも述べていますが、フリーランスの場合、厚生年金や雇用保険等に加入できず、労働者と比べ、保障が不足しています。
今でこそ資産形成には様々な選択肢はありますが、昔から小規模企業の経営者や個人事業主にとっては有力な選択肢の1つとされてきた制度です。
昔からある制度なんですね。
制度の概要
加入資格
小規模企業共済制度への加入資格を持つのは下記の方々です。
- 個人事業主
- 個人事業主の共同経営者
- 法人役員
クリエイターの場合、個人事業主の方がほとんどだと思います。
中には、法人化している方もいると思いますので、そういった方は、法人役員に該当してきます。
共同経営者はイメージしづらいかもしれませんが、共同経営契約書を個人事業主と締結し、事業に対する報酬を受けていたり等の条件があります。
また、事業において、雇用する従業員数にも下表の様な制限があります。
営む事業の種別 | 従業員数の制限 |
---|---|
建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)等 | 常時使用する従業員の数が20人以下 |
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く) | 常時使用する従業員の数が5人以下 |
日本標準産業分類(平成25年[2013年]10月改定)によると、イラストレーターやライターは「学術研究,専門・技術サービス業」というものに分類されます。
これに準ずると、漫画家やVtuber、動画クリエイター等のほかのクリエイターもサービス業に分類されるかと思われます。
しかし、実際のところ、クリエイターがフルタイムの従業員を何人も雇っているというケースは稀だと思いますので、大体の方はあまり気にする必要はないのではないでしょうか。
ただし、注意点として、他社等で給与所得を受けている会社員は加入できません。
そのため、副業でクリエイターをしている方は対象外です。
その他にも細々とした加入要件はありますが、フリーランスのクリエイターという働き方をしている場合、加入要件に該当しないというケースはあまりない様に思えます。
掛金
掛金は、月1,000~70,000円まで500円単位で設定できます。
掛金の増額・減額は理由を問わず、自由に行うことができ、その時々の収入に応じ、無理なく積み立てることができます。
払込方法には、年払い、半年払い、月払いの3パターンが選択できます。
共済金等
共済金等には下記の4種類が存在し、それぞれ請求事由が定められています。
種類 | 個人事業主 | 共同経営者 | 法人役員 | 掛金納付月数 |
---|---|---|---|---|
共済金A | ・廃業時 ・契約者死亡時 | ・廃業により退任した場合 ・疾病、負傷により退任した場合 ・契約者死亡時 | ・解散時 | 6か月未満の場合は受取り不可 |
共済金B | ・老齢給付 (65歳以上、180か月以上掛金を払い込んだもの) | ・老齢給付 (65歳以上、180か月以上掛金を払い込んだもの) | ・疾病、負傷、65歳以上により役員退任した場合 ・契約者死亡時 ・老齢給付 (65歳以上、180か月以上掛金を払い込んだもの) | 6か月未満の場合は受取り不可 |
準共済金 | ・法人成りし、加入資格がなくなった場合 | ・法人成りし、加入資格がなくなった場合 | ・解散や疾病、負傷によらず、65歳未満で役員退任した場合 | 12か月未満の場合は受取り不可 |
解約手当金 | ・任意解約 ・機構解約 ・法人成りし、加入資格がなくならなかったが、解約した場合 | ・任意解約 ・機構解約 ・任意に退任した場合 ・法人成りし、加入資格がなくならなかったが、解約した場合 | ・任意解約(掛金納付月数に応じ、80~120%) ・機構解約(12か月以上滞納) | 12か月未満の場合は受取り不可 |
受取方法
受取り方法には、下記の3種類があります。
- 一括受取
- 分割受取
- 一括受取と分割受取の併用
ただし、分割受取または一括受取と分割受取の併用の場合、下記の要件を満たす必要があります。
- 共済金Aまたは共済金B
- 請求事由が共済契約者の死亡でないこと
- 請求事由が発生した日に60歳以上であること
- 共済金の額が300万円以上(分割受取の場合)
- 共済金の額が330万円以上(一括受取と分割受取の併用の場合)
※ただし、一括で受け取る金額が30万円以上、分割で受け取る金額が300万円以上)
なお、分割受取による共済金は、10年または15年のいずれかを受取期間とし、年6回奇数月に支給されます。
貸付制度
共済金等とは別に、納付した掛金から算定した貸付限度額の範囲内で借入れをすることもできます。
今回の記事の趣旨とは違いますので、詳細は解説しませんが、どの様な貸付をしているのかご紹介だけしておきます。
比較的低い利率で借りられますので、こういった制度があるということだけ今回は頭の片隅に置いておいてください。
種類 | 用途 | 利率 |
---|---|---|
一般貸付 | 事業に必要な運転資金、その他事業に関連する資金、生活資金 | 1.5% |
緊急経営安定貸付け | 資金繰りが著しく困難なときに、経営の安定を図るための事業資金 | 0.9% |
傷病災害時貸付け | 災害等により被害を受けた際に、経営の安定を図るための事業資金 | 0.9% |
福祉対応貸付け | 福祉向上を目的とする住宅改造資金 、福祉機器購入等の資金 | 0.9% |
創業転業時 新規事業展開等貸付け | 創業転業時:創業転業を行う際の事業資金 新規事業展開等:事業多角化または新規事業開始に要する資金 | 0.9% |
事業承継貸付け | 事業承継(事業用資産または株式等の取得)に要する資金 | 0.9% |
廃業準備貸付け | 設備の処分費用、事業債務の清算等、廃業の準備に要する資金 | 0.9% |
税法上の扱い
小規模企業共済の一番の強みは税制メリットがあることです。
具体的には、税法上で下記のように取り扱われます。
ケース | 税法上の扱い |
---|---|
掛金を拠出する場合 | 小規模企業共済等掛金控除 |
一括受取する場合 | 退職所得 |
分割受取する場合 | 公的年金等に係る雑所得 |
任意解約・共同経営者の任意退任の場合(65歳未満) | 一時所得 |
機構解約による場合 | 一時所得 |
所得の細かい計算方法については、それだけで1記事書けてしまうのでここでは詳細を割愛しますが、簡潔に示すと下記の様に扱われ、所得を小さくすることで、支払う税を少なくすることができます。
種別 | 税効果 |
---|---|
小規模企業共済等掛金控除 | ・総所得金額(様々な所得の合計)から掛金分を控除できる。 |
退職所得 | ・退職所得は、【(退職金ー退職所得控除額)】を更に$\frac{1}{2}$して計算される。 |
公的年金等に係る雑所得 | ・公的年金等の雑所得は【公的年金等の収入額ー公的年金等控除額】で計算される。 |
一時所得 | ・一時所得額は【収入金額ーその収入を得るために支出した金額-50万円】で計算される。 ・総所得金額に算入される金額は【上記式で算出した一時所得額】を更に$\frac{1}{2}$して計算される。 |
小規模事業者にとってとても使いやすい制度ですね。
投資先としての評価
ここまで制度の概要について説明してきましたが、投資先として考えた時はどうでしょうか。
まず、支払われる共済金ですが、共済金の額はまず、小規模企業共済法施行令で定められている基本共済金と、毎年度の運用収入等に応じて、経済産業大臣が毎年度定める率により算定される付加共済金の合計額となります。
小規模企業共済では、令和6年2月末現在、基本共済金の予定利率を1.0%で運用しています。
付加共済金については年によって異なりますが、ここ数年は0~0.5%程度で推移している様です。
受け取る共済金等の種類によるので一概には言えませんが、老齢給付である共済金Bを例として利回りを考えてみると、おおよそ1~1.5%程度となります。
節税効果も含めて考えると実質的な利回りはもう少し大きくなりますが、投入額に対するリターンを考えるとiDeCo等で株式運用した場合と比較し、だいぶマイルドな利回りです。
インフレ率が2%程度で推移すると仮定すると、若干の目減りとなりますが、定期預金等に預けておくよりはずっとよいのではないでしょうか。
積極的に増やしていくというよりも、確実に積み立てていくスタンスの場合はよさそうです。
安定志向なクリエイターの退職金運用におすすめ
今回は小規模企業共済について解説してきました。
iDeCoとよく比較対象となる小規模企業共済ですが、「退職金はできるだけリスクに晒したくない」というクリエイターにとっては、安定的に退職金を運用してもらえるよいお金の預け先と言えるのではないでしょうか。
また、節税効果や廃業時等の共済金を受け取り、貸付制度等も充実しており、まさに事業主向けの制度であるとも言えます。
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や個人事業主向けの制度ですので、企業勤めのクリエイターは利用できません。
個人で活動もしくは小規模な会社を経営しているクリエイターだからこそ利用できる制度です。
制度を上手く活用し、ご自身の資産形成に繋げていっていただければと思います。
小規模企業共済で安定的に運用しつつ、iDeCoで積極運用するという活用もできそうですね。