会社員とフリーランスのクリエイターでは保険の選び方は違うんでしょうか?
民間の保険は、「公的保険を活用してもなお不足する場合」や、「万が一起こってしまった際、取り返しのない損失がある場合」を補完するために活用すべきものです。
そのため、フリーランスが保険を選ぶうえでは、会社員との違いを知り、何が足りないのか理解することが大切です。
今回は、フリーランスのに不足する保険について考えていきます。
フリーランスと会社員の保障の違い
会社員が加入できる公的保険と、フリーランスが加入できる公的保険を比較すると、不足する保障がいくつかあります。
フリーランスとして仕事をしていくうえで、不足する保障を把握し、いかにカバーするかを考えねばなりません。
それでは、フリーランスと会社員で異なる保障とはなんでしょうか。
まず、各公的保険毎のフリーランスと会社員の加入可否について見ていきましょう。
フリーランス | 会社員 | |
---|---|---|
健康保険 | ||
年金保険 | ||
労災保険 | ||
雇用保険 |
会社員はすべての保険で恩恵を受けられるので、◎としています。
一方で、フリーランスの〇は加入できるものの、会社員と比べて保障が不足するものです。
×は加入ができないものです。
次に、各保険毎の違いを説明します。
健康保険
まず会社員は健康保険、フリーランスは国民健康保険に加入します。
健康保険と言えば、病院で治療を受けた際や処方された薬を受け取る際、自己負担3割で、残り7割の給付を受ける療養給付のイメージが強いかもしれません。
これや医療費が限度額を超えてしまった際に支給される高額療養費、出産時に支給される出産育児一時金は幸いにも、会社員もフリーランスも変わりません。
しかし、国民健康保険には、傷病手当金と出産手当金が存在しません。
傷病手当金とは、病気や怪我等で3日連続で働けない場合、4日目から給与(厳密には標準報酬月額)の約2/3が支給される手当です。
出産手当金とは、出産日前42日前から出産日後56日までの間に働けない場合、給与(厳密には標準報酬月額)の約2/3が支給される手当です。
つまり、健康保険においてフリーランスは、出産や傷病で仕事ができなくなった期間は、収入が途絶えることになります。
そのため、その期間中の生活費をいかに確保するか対策が必要です。
年金保険
下記の記事でも解説していますが、会社員は厚生年金、フリーランスは国民年金に加入しています。
フリーランスでも年金を受給することはできますが、老後の年金額は会社員とフリーランスでは大きく差があり、国民年金だけで生活することは困難です。
また、遺族年金や障害年金についても国民年金だけでは不足します。
そのため、他の方法で年金を用意しなければなりません。
労災保険
会社員ならば当たり前に入っている労災ですが、フリーランスは加入できません。
※職種によっては、例外的に加入できる個人事業主もいますが、これを特別加入といいます。
労災保険では、病気や怪我をした時、障害者になった時、死亡した時等に給付を受けることができます。
しかし、フリーランスでは、仕事による各保障が受けられないため、別の方法で対策が必要です。
雇用保険
フリーランスの場合、雇用保険にも加入できません。
そのため、会社員ならば当然の様にもらえる、俗にいう失業手当や育児休業給付などの保障が受けられません。
失業した際や育児のために休業する場合、無収入となるため、その期間の生活費についてもフリーランスは考えねばなりません。
民間保険で備えられる保障
ここまでで、各保険におけるフリーランスと会社員の違いを見てきました。
不足しているものが色々とあることはわかりましたが、端的にまとめると、下記の様になります。
- 怪我や病気等で働けない期間の保障
- 出産や育児で働けない期間の保障
- 失業時の保障
- 老後資金の保障
- 障害を負った時の保障
- 遺族のための保障
それでは、これらの保障は民間保険で備えられるのでしょうか。
フリーランスに不足する保障に備えられる民間保険を対応させたのが下記の表です。
不足する保障 | 保険の種類 |
---|---|
怪我や病気等で働けない期間の保障 | 就業不能保険、所得補償保険 |
出産や育児で働けない期間の保障 | |
失業時の保障 | |
老後資金の保障 | 養老保険、個人年金保険 |
障害を負った時の保障 | 就業不能保険 |
遺族のための保障 | 養老保険、定期保険、終身保険、収入保障保険 |
それでは、それぞれの保険について概要を説明していきます。
怪我や病気等で働けない期間の保障
怪我や病気等で働けない期間の保障としては、就労不能保険や所得補償保険があります。
前者は生命保険、後者は損害保険です。
具体的な違いとして、就労不能保険は65歳まで等の長期間、所得補償保険は1年間まで等の短期間を保障する保険であるということです。
また、それぞれの保険は、保険金が支払われるまで、前者は180日程度、後者は1週間程度の免責期間が設定されています。
そのため、就労不能保険に加入していたとしても、保険金がもらえるまで時間が掛かり、その期間に生活費がなくなってしまうこともありえます。
そのような時、免責期間が短い所得補償保険を併用し、就労不能保険が支給されるまでのつなぎとして利用するといった使い方ができます。
※上記の日付の設定は一例であり、商品により異なります。
さて、この2つの保険ですが、どういった方が加入すべきでしょうか。
怪我や病気等で働けない期間の保障を目的とするならば、個人的には、どちらも不要と考えています。
下記の記事でも述べていますが、収入が途絶えたときの生活費は、基本的に生活防衛資金から捻出するものだと考えているからです。
保険料を支払う分、生活防衛資金を積み立てていくべきでしょう。
ただし、収入が低く、生活防衛資金が確保できていない期間に、所得補償保険にスポット加入するのは有効です。
生活防衛資金が確保できていない期間に万が一のことがあった場合、取り返しがつきませんので、その期間だけは保険に頼り、生活が安定してきたら解約すれば良いでしょう。
出産や育児で働けない期間・失業時の保障
出産や育児、失業中の収入を保障する民間保険は、2023年4月現在、私は把握していません。
そのため、ライフプランを立て、計画的に資金を積み立てていくほかありません。
老後資金の保障
国民年金しか加入できないフリーランスのクリエイターは老後資金が不足していること説明しましたが、老後資金の保障に使える保険として、養老保険や個人年金保険があります。
養老保険とは、死亡保険金または満期保険金を受け取れる保険で貯蓄性がある商品です。
個人年金保険とは、その名のとおり、個人で年金を積み立てていく商品で、確定申告で個人年金保険料控除ができます。
ちなみに、私はこれらの保険をあまり推奨していません。
その理由は2つあります。
まず、途中契約すると元本割れする可能性があることです。
これらの保険は長期間、保険料を払い続けていかねばなりません。
しかし、何かしらの事情で保険料の払い込みが難しくなり、中途解約しなければならない必要が生じた場合、元本割れすることがあります。
次に、インフレに弱いことです。
養老保険も個人年金保険も基本は定額で、利率もたかが知れているので、インフレが進むと相対的にもらえる保険金の価値が下がります。
ただし、個人年金保険は変額型のものがあるため、そちらであれば、インフレにも一定の対応が可能です。
さらに、これらのデメリットは、iDeCoやNISAを活用すれば解決できるものです。
iDeCoやNISAは積み立てる金額を変更することができるため、無理なく続けられますし、自分のスタイルに合わせて運用できるため、インフレ対策も可能です。
もし、運用するのが怖く、安定を求めるならば小規模企業共済を活用する方法もあります。
小規模企業共済も加入期間20年未満の場合は元本割れするデメリットはあるものの、1,000円~70,000円の範囲で掛金の変更ができますので、無理なく続けられます。
更に、国民年金基金や付加年金といった手段も取れます。
老後資金については、国がそもそも課題意識を持っているため、民間保険に頼らずとも、他の優れた手段が多くあります。
自身のスタイルに合わせた老後資金の形成をしていきましょう。
障害を負った時の保障
先ほど怪我や病気等で働けない期間の保障でも紹介した就業不能保険ですが、障害を負った時に備える保険としても活用できます。
先ほどは不要と述べましたが、障害を負った時に備えるという観点で見た場合、フリーランスの方にとっては加入を検討して良いかもしれません。
フリーランスでも国民年金には加入していますので、障害基礎年金は受給できます。
しかし、老齢基礎年金同様、それだけで生活していくことは難しいため、上乗せが必要です。
自分が障害基礎年金をいくら受給できるのか把握したうえで、生活するのにいくら不足するのか逆算し、その不足する部分を就業不能保険で補うという使い方がおすすめです。
間違っても、生活費をこの保険だけで補うという使い方はしないようにしてください。
遺族のための保障
遺族のための保障として備える保障としては、定期保険や終身保険、収入保障保険、それと老後資金の保障で紹介した養老保険等の生命保険があります。
一定期間中だけ保障してくれる定期保険や生涯保障してくれる終身保険は馴染みが多い方も多いと思いますが、収入保障保険は初めて聞く方もいるかもしれません。
この中で個人的に薦めるのは収入保障保険です。
所得補償保険と名前がなんとなく似ていますが、全く異なるものです。
収入保障保険とは、被保険者が死亡等したときに、保険期間中、毎月年金形式で受け取れる保険です。
例えば、30歳の時に60歳まで保障する契約をした人が、40歳で亡くなった場合、40歳から60歳までの間、毎月年金形式で保険金を受け取ることができます。
なお、このお金は年金方式ではなく、一括で受け取ることも可能です。
この保険は私も入っていますが、非常に使い勝手が良い保険です。
使い方としては、【生活費-遺族基礎年金】の差額を保険金として設定し、遺族基礎年金の上乗せ分として使用します。
厚生年金に加入できないフリーランスでも、遺族厚生年金の代替として使用できます。
定期保険や終身保険は、期間中であれば、いつ死亡したとしてももらえる金額は一定です。
例えば、1,000万の契約をしていれば、40歳で亡くなっても50歳で亡くなっても1000万もらえることは変わりません。
しかし、収入保障保険は、早くに亡くなればトータルでもらえる金額は大きくなり、契約満了直前に亡くなった場合は、もらえる金額が小さくなる仕組みです。
例えば、年金月額10万円、60歳まで保障期間だとすると、40歳で亡くなった場合は\( 10万円 \times 12か月 \times 20年 = 2,400万円 \)を20年かけて受け取ることになりますが、50歳で亡くなった場合は、\( 10万円 \times 12か月 \times 10年 = 1,200万円 \)を10年かけて受け取ることになります。
当然、若い時に亡くなる可能性の方が低いので、保険会社の立場では、高額の保険金を支払う可能性は低くなります。
その様な商品設計のため、保険料も比較的安価に設定されています。
また、遺族側の立場から見ても、若い頃に亡くなってしまった場合は、子供の学費等で多くの支出が見込まれるため、多くの保険金が必要となりますが、ある程度の歳で亡くなった場合、子供も巣立っており、必要なお金も当然少なくなります。
収入保障保険は、ライフステージに合わせて必要な保障を安価に得られる保険として、非常に優秀な商品であると思います。
残す家族がいる方は、検討の余地ありです。
まとめ
ここまで、フリーランスのクリエイターに不足する保険について、会社員との違いという観点から考えてきましたが、いかがだったでしょうか。
民間保険は「公的保険を活用してもなお不足する場合」と、「万が一起こってしまった際、取り返しのない損失がある場合」を補完するために活用しますが、基本的に保険は保険会社が儲かる仕組みになっており、加入者からすると、起こる可能性が低い、悪いことがあった時に得する性質のものです。
安心のために必要以上の保険に加入することは、資産を形成するにあたり障害となるため、避けましょう。
民間保険は、自分が加入している公的保険でどこまでの保障を受けられるのか、どれだけ不足するのかを十分理解したうえで、有効に活用しましょう。